男子100m決勝、スタートで大きく出遅れたボルト選手は後半に怒涛の追い上げを見せ隣のレーンのコールマン選手に追いつく寸前でフィニッシュとなりました。肉眼でもわずかに届かなかったのがわかりました。あ~惜しい!若手に敗れてまさに世代交代だな・・・と思ったらカメラは雄叫びを上げるガトリン選手を映しています。あれ?まさか・・・。なんとボルトとコールマンから離れた外のレーンを走っていたガトリンが一着だったのです。ボルトしか見ていませんでした。世代交代かと思いきや、ボルトより年上で35歳のガトリンが金メダルを獲得しました。
一着はガトリン(写真奥)
ガトリンはボルトに跪いて敬意を表した後、長い抱擁を交わしました。その後ボルトは大歓声に応えながら場内を一周、一方勝ったガトリンはしばらくトラックにうずくまり嬉し泣きしました。ボルトが勝っても負けてもドラマチックになると予想はしていましたが、感動しました。
負けたとはいえ、スタートでの大幅な遅れを巻き返したボルトは十分に持ち味を発揮したといえます。やはりトップスピードでは現時点でも世界最速なのでしょう。それだけにスタートの遅れが悔やまれます。全盛期であればあれでも逆転できたのでしょうが、やはりもうそこまでの力は無いということで引退という判断は正しいのかなと思いました。そして勝ったガトリンを賞賛するべきなのかなと思います。35歳という年齢もさることながら、予選から常に激しいブーイングに合いながらも自分の走りを崩さなかったということが素晴らしいです。(もちろんブーイングの原因となった過去のドーピングについてはルール違反である以上責められても仕方の無いことです。しかし4年間の出場停止処分を経て競技復帰を許されている以上はルール上問題ありません)私と年齢が近い(実力は遥か遠い)ガトリン選手がどのようなトレーニングとコンディショニングを行っているのか非常に興味があります。
ボルト選手の正真正銘のラストランは4×100mRの決勝でした。ここでも金メダルは難しい状況でした。ライバルの米国・英国の好調さに対し今回のジャマイカは走力的にもこれまでの世界大会に比べると寂しい感じです(100mではボルトの3位が最高、世界歴代2位のタイムを持つヨハン・ブレイクは不調、元世界記録保持者のアサファ・パウエルは不在)。
しかしアンカーのボルトは苦手のスタートが無い状態でのスタートですから100m以上に怒涛の追い上げがあるかもしれないという期待もありました。
ボルト選手にバトンが渡った時点では日本との銅メダル争い、前を行く米国・英国は全盛期であれば射程距離ギリギリといったところでした。しかし逆転の金メダルに向けて加速した瞬間、ボルト選手はハムストリングに痙攣(怪我?)が発生し脚を引きずりながら失速しトラックに倒れ込みました。誰も予想できない結末でした。日本が銅メダルを獲得したのに何とも言えない気持ちになりました。
少し時間が経った今、皆が期待したような華やかなラストランではなかったけど、あれはあれで美しかったかなとも思います。ウサイン・ボルトはスター選手であると同時に人間はどこまで速く走れるのかという「人類の可能性」のような存在でした。そんな彼が脚を傷めて次々と抜かれ、トラックに倒れて悲しみ、悔しがる姿を見て彼も人間だったんだなと思いました。そしてあれだけのキャリアがありながら限界まで挑戦し続けたことの美しさは金メダル以上の輝きがあると感じました。