先日日本人初の9秒台をマークした桐生選手ですが、足首が非常に硬いという記事が出ていました。これが欠点としてではなく速さの秘訣として紹介されていました。スポーツをする上で足首が硬いということは欠点のように思われるかもしれませんが、速く走るということに限って言えば足首は硬いほうが有利です。今回はその理由を説明していこうと思います。
短距離走の特性として疾走速度が高くなるほど接地時間は短くなります。これまでの研究で100m走の記録と接地時間との関係において有意な負の相関関係が認められています(つまり速い選手ほど接地時間が短く遅い選手は接地時間が長い傾向がある)。
ではどうすれば接地時間が短くなるのか。疾走速度の高い選手ほど着地から離地までの間の足首の角度の変化が小さいことが分かっています。つまり足首を固定した状態で接地しているのです。着地の瞬間は足首が過度に背屈(つま先を上げる方向へ動かすこと)せず、離地の際にも過度に底屈する(足首を伸ばす)ことはありません。足首でキックするのではなく足首は固めて弾むことで短い接地時間で走ることが可能になるのです。関節を固めて弾む技術をブロッキング(関節をブロックする)と呼んだりします。
僕も当然このブロッキングを使って走っています。具体的には接地の直前に少し足首を背屈させて固定する感じです。この技術を知ってから初めて地面反力を利用する「弾む」という感覚が理解でき、タイムが飛躍的に向上しました。
この足首のブロッキングですが意識しすぎると走りが崩れることがあります。身体の末端部分である足首に力を入れようとすると身体全体が力んでしまうからです。理想は接地の瞬間に反射的に力が入るようにすることですが、なかなか難しいものです。また足首を過度に背屈させると踵から接地してしまうのでブレーキがかかります。ちょうど良い角度で固定しないといけません。さらに固定するのに筋力を使うので接地の時以外は脱力していないとすぐに疲労してしまいます。
さて話を桐生選手に戻しますが、彼は踵を地面に付けたまましゃがめないほど足首が硬いそうです。ということはあまり足首を背屈させることができないということです。裏を返せば接地の瞬間に足首が過度に背屈する心配はありません。足首がつぶれて地面からの反発力を吸収してしまうことがないので、より短い接地時間で強く弾むことが出来るのです。
ここからは想像ですが、仮に背屈だけでなく底屈も固いのだとすれば、もはやブロッキングを意識する必要すらないのかもしれません。元々硬いから固めようとする必要がないということです。何も考えずに接地すれば硬い足首が脚力を逃がさず地面に伝え、反発力をもらうことが出来るというわけです。足首がつぶれたり、キックしてしまう選手に比べて接地時間は短くなりピッチが上がりストライドも伸びることになります。
ちなみに僕は足首が柔らかいです、残念ながら。特に背屈方向が柔らか過ぎます。通常背屈角度は20度程度らしいですが僕は30度を超える角度まで背屈できてしまいます。いくらブロッキングを意識しても元々硬い足首には敵いません。バネはけっこうあるのでストライドは出るのですがピッチが上がりにくかったり、スタートの飛び出しが弱いのは足首の緩さが原因のひとつかと思っています。足首を柔らかくする方法(ストレッチ等)は調べればたくさん出てきますが、硬くする方法はなかなか出てきません。テーピングで固めたり色々やってみたんですが解決策は見つかっていません。
同じ弾むにしても桐生選手の「ダン!ダン!」に対して自分は「ビヨ-ン、ビヨーン」例えるならゴルフボールとゴムボールです。ゴルフボールにはなれないにしても、せめて空気がパンパンに入ったゴムボールぐらいにはなりたいものです。